タイ税務改正動向:E-withholding tax 制度運用開始及び源泉税の優遇措置
タイ税務改正動向:E-withholding tax 制度運用開始及び源泉税の優遇措置
タイでは所得税の徴収にあたって、給与・報酬・利子・配当・使用料等の支払者がその支払の際に所得税等の税金を差し引き、本来所得税を納付すべき受領者に代わって国等に納付する源泉所得税制度が採用されています。特に事業者間の取引において、物品売買を除く幅広い取引(サービス提供、請負、広告、賃貸取引等)が源泉対象とされています。現行の源泉徴収制度では 、報酬等の支払いをする事業者(以下「支払者」)は、①支払の都度、源泉税を計算・控除し、また②源泉控除の都度、税務上の要件を満たすwithholding tax certificate (源泉徴収票)を作成し、その原本を報酬の受領者へ送付、そして③控除した源泉税について源泉税申告書を作成し税務署への申告納税を行う、という源泉税事務サイクルを実施する必要があります。一方報酬の受領者側では、控除された源泉税を当該所得に賦課される所得税支払いに充当することが可能ですが、支払者より発行される源泉徴収票の原本を回収し、税務上の適正性をチェックの上保存する必要があり、報酬等の支払者・受領者ともに一定の事務負担が生じています。今後E-withholding taxを利用することにより、これらの手続きの簡略化、事務負担の軽減が期待されます。
E-withholding taxの概要は以下の通りです。
1) 支払者は、取引銀行のインターネットバンクサービスにて支払い処理を行う際に、インターネットバンクを介してE-withholding tax サービスに源泉税処理に関する情報(支払者・受領者のTax ID, 報酬の種類、源泉税額、VAT額、電子源泉徴収票の送付先情報等)を入力します。
2) 支払者の口座からは源泉税控除前の報酬額が出金され、受領者の銀行口座には源泉税控除後の報酬額が送金され、源泉税は支払者の取引銀行が一旦預かります。
3) 2) と同時に、支払いに際して源泉控除を行った証明として、E-withholding taxサービスより電子源泉徴収票が発行され、受領者にメール等にて送付されます。電子源泉徴収票はこれまでの紙ベースでの源泉徴収票と同様の情報が網羅されており、代用が可能です。
4) 支払者の取引銀行は、支払日より4営業日以内に歳入局へ預かった源泉税額を送金し、源泉税情報を送付します。
5) 歳入局は銀行から源泉税及び源泉税情報を受取ると、支払者へ電子納税証明を発行します。これをもって当該取引に関する源泉税の納税申告が完了したとみなされ、月次の源泉税申告 (PND53) を改めて行う必要はありません。
6) 支払者は電子納税証明を、受領者は電子源泉徴収票を、歳入局の専用サイトから再度ダウンロードすることが出来ます。紙での保存は不要となります。
E-withholding taxサービスの申し込みをしていても、現金や小切手等のE-withholding tax経由しない源泉税対象の支払を行った場合には、従来通りの源泉税事務、申告納税が必要になります。また現段階では当該E-withholding tax サービスは、事業者間のサービス 取引のみ (現状の源泉申告書書式PND53, PND3の対象取引) に適用される予定で、給与源泉所得税等、他の源泉税項目は対象外となる予定です。
※E-withholding tax 利用による源泉税率の軽減措置
タイ政府では、2020年前半からの新型コロナウイルス流行に起因する経済停滞で困窮する事業者の資金繰り支援のために、 一定のサービス料支払いの源泉税率を1.5%(通常は3%)とする軽減措置を導入していました。しかしながら2020年10月以降2021年12月までは、E-withholding taxサービスを利用して控除された源泉税のみについて源泉税率を2%とする軽減措置が適用され、それ以外の源泉税は通常の3%の税率となります。2020年10月以降の軽減措置の対象のサービス料取引及び受領者要件は以下の通りです。
対象となるサービス料 | 受領者の要件 |
・仲介料、コミッション ・のれん、商標、その他知的財産権提供の対価 | 法人事業者、パートナーシップ事業者 (収益事業を営む、又は税法47条に基づき指定された公益財団・協会等の特定機関を除く) |
・法務、技術、建築等の専門家サービス報酬 ・履行に必要な用具を請負者が用意する形式の請負サービス報酬 ・請負報酬、賞金、販売促進のための値引き、その他のサービス報酬(公的機関への報酬、広告費、損害保険料、交通サービス報酬を除く) | タイに居住し、又はタイで事業を営むタイ個人所得税又は法人税の納税者(収益事業を営む、又は税法47条に基づき指定された公益財団・協会等の特定機関を除く)
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(2020年9月作成)
免責事項
本記事は、作成日時点でのタイの法律等改正動向や一般的な解釈に関する情報提供を目的としております。内容については、正確性を期しておりますが、正確性を保証するものではなく、また作成後の法律改正等により最新の情報でない場合もあります。本記事の利用は、利用者の自身の判断責任となり、利用により生じたいかなるトラブルおよび損失、損害に対してMazarsは一切責任を負いません。個別の具体的な案件を進める場合には、事前に専門家へご相談頂きます様、お願い申し上げます。