タイ税務改正動向:タイバーツ以外の「機能通貨」による法人税申告
タイ税務改正動向:タイバーツ以外の「機能通貨」による法人税申告
※機能通貨・・企業が現金を創出し、支出する主たる経済環境の通貨。IFRS(国際会計基準)においては、企業は機能通貨をベースとして会計記帳を行うことが求められます。
タイの法人税申告は一般的には、タイバーツをベースとした会計記録・財務諸表に基づき法人税計算を行います。しかしながら、タイ経済の国際化に伴い外貨をベースとして活動する企業が増えてきたこと、また国際会計基準との整合性の観点から、外貨を機能通貨として会計記帳・財務諸表を作成するニーズが生じていました。本件通達により、法人税上も外貨を機能通貨として計算・申告することができることになり、タイ企業が外貨を機能通貨として採用しやすい環境がより整備された形となります。
また、タイバーツをベースとした法人税計算においては、企業が保有している外貨建て
資産負債や外貨建て取引はタイバーツへ換算して法人税計算に反映する必要があり、外貨での資金決済が多い会社や、外貨建て資産負債を多く保有している会社は、外貨の為替変動により予期せぬ差損益が発生してしまうリスクを抱えていました。しかしながら、本件通達により、外貨を機能通貨とした法人税計算を行うことにより為替による法人税の変動リスクを低減・回避できるメリットがあります。
【例】
- 前提条件
M社・・12月末決算期、2020年12月末から2021年12月末まで、預金100百万USDを保有。それ以外の事業活動は無い。THB/USD換算レートは、2020年12月末:1USD=30THB、2021年12月末:1USD=31THB
A. タイバーツをベースとする法人税申告の場合
外貨預金に関して為替変動による為替差益100百万THBを認識。
2021年12月末換算額3,100百万THB―2020年12月末換算額3,000百万THB この利益100百万バーツに対する法人税20百万バーツが発生
B. 米ドルを機能通貨とする法人税申告の場合
外貨預金についてUSDベースでは変動がなく、為替差益は認識不要。よって利益が無く法人税額も発生しません。
外貨を機能通貨として法人税計算を行うための主な条件・手続きは以下の通りです。
1. 会社は、法人税申告の基礎となる会計記帳に際して外貨を機能通貨として採用し、また機能通貨の採用に関して公認会計士の認証を受けること。
なお、多くの日系企業が採用している会計基準TFRS for NPAEs(タイ非公開会社向け会計基準)では、機能通貨の規定が無く、会計処理及び財務諸表作成はタイバーツをベースとすることとされています。外貨を機能通貨として採用した財務諸表を作成するためには。会計基準を、タイバーツ以外の通貨を機能通貨と設定できるTFRS(タイ公開会社向け会計基準。非公開会社でも適用可)に変更する必要がありす。
2. 機能通貨として採用する外貨は以下のいずれかであること。
オーストラリア・ドル (AUD) | イギリス・ポンド (GBP) |
ブルネイ・ドル (BND) | カナダ・ドル (CAD) |
中国元 (CNY) | デンマーク・クローネ (DKK) |
ユーロ (EUR) | 香港ドル (HKD) |
インド・ルピー (INR) | インドネシア・ルピア (IDR) |
日本円 (JPY) | マレーシア・リンギット (MYR) |
ニュージーランド・ドル (NZD) | ノルウェー・クローネ (NOK) |
フィリピン・ペソ (PHP) | シンガポール・ドル (SGD) |
大韓民国・ウォン (KRW) | スウェーデン・クローネ (SEK) |
スイス・フラン (CHF) | 台湾ドル (TWD) |
アラブ首長国連邦・ディルハム (AED) | 米ドル (USD) |
ベトナム・ドン (VND) |
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3. 外貨を機能通貨として採用する会計期間の初日から6ヶ月以内に、その旨を歳入局へ 通知すること。通知の手順の概要は以下の通り。
3.1 歳入局または財務省ウェブサイトの機能通貨に関する申請ページ(Form Sor. Ngor. 1 各申請フォーマットURL 5ページ目参考)に必要情報を入力し提出
3.2 会社が外貨を機能通貨とした旨のタイ公認会計士(通常は会社財務諸表の会計監査人)の確認書(各申請フォーマットURL 4ページ目参考)をスキャンし、歳入局または財務省のウェブサイトで提出する。
※ 歳入局ウェブサイト:
http://newstartup.rd.go.th/fcinter/main.jsp
財務省ウェブサイト:
https://etax.mof.go.th/TaxSSOLogin/
各申請フォーマット:
https://www.rd.go.th/publish/fileadmin/user_upload/kormor/newlaw/dg373.pdf
4. 外貨の機能通貨への採用は、会計年度の初日からのみ行うこと。期の途中での採用は不可。また採用した機能通貨は原則として継続的に使用すること。
5. 機能通貨をタイバーツに戻す、または再度別の通貨へ変更する場合には、歳入局で申請・承認を得ること。(上記3と同様の手順で、申請フォーム(Sor. Ngor. 2・各申請フォーマットURL 6ページ)より提出)
6. 外貨の機能通貨への採用、また機能通貨の変更を行う会計期間の前期末の資産負債について、会計監査人より承認された会計方針に基づき、機能通貨への換算を行うこと。
7. 会計期間の末日の資産負債の機能通貨への換算は以下のいずれかのレートを用いること。
7.1 タイ中央銀行(Bank of Thailand)公示の商業銀行TTB、TTS、又はTTBとTTSの平均レート。
7.2 その他歳入局より承認を受けたレート
8. 会社は、歳入局または財務省のウェブサイトより電子申告にて法人税申告書を提出すること。なお、法人税申告書上の数値表示も機能通貨を用いる必要があります。
(2020年11月作成)
免責事項
本記事は、作成日時点でのタイの法律等改正動向や一般的な解釈に関する情報提供を目的としております。内容については、正確性を期しておりますが、正確性を保証するものではなく、また作成後の法律改正等により最新の情報でない場合もあります。本記事の利用は、利用者の自身の判断責任となり、利用により生じたいかなるトラブルおよび損失、損害に対してMazarsは一切責任を負いません。個別の具体的な案件を進める場合には、事前に専門家へご相談頂きます様、お願い申し上げます。